「日本語を教える」と一言で言っても、なかなか日本語教師養成講座などのマニュアル通りにいかないものです。特に海外では、日本人の小中高校生のように「集団行動」「忍耐力」(じっと聞く)などの点で大きく異なる場合が多いので、ペーパーワークではなく、体を動かすアクティビティを取り入れながら教えていく必要があります。
このページでは、オーストラリアで日本語教師アシスタントとしてご活動されているみなさんの、実際の授業で「使えた」ネタをご紹介します。みなさん、いろいろと試行錯誤してがんばってます。現在、日本語教師や日本語教師アシスタントとしてご活動しているみなさん、これから参加するみなさん、ご参考にどうぞ!
折り紙を教えるコツ
折り紙はいつでも、どの学年にも人気です。でも学年によって教え方に工夫が必要です。特に小学校1~3年の低学年。オーストラリアの子どもたちは日本の同年代の子どもより、手先が器用ではありません。なので、小学校1年生(Year1)に教えるときは、まず、
- 事前に生徒全員分の(動物などの)折り紙を折って教室にもっていき、最初はそれに顔を描かせるだけ、にします。そうするとみんな、完成形が先にわかるので、興味をもってくれます。顔を描くだけでも、「自分たちが完成させた!」という感覚が強く、予想以上に喜んでくれます。
- 次の授業のときは子どもたちに実際に折ってもらうのですが、このときも、最初はまずゆっくり一緒に折ってあげて、一つ、完成させるのがコツ。最初から一人でやってもらうとまず挫折します。
- 次に、実際に一人で折ってもらいます。そうするとうまくいく場合が多いです。
折り紙は食いつきがいいですし、いろんな授業ネタとコラボできるのでいつも「困った時の折り紙頼み」してます。(RTさん、QLD州の小学校で日本語教師ボランティア)
キャラクター使用の注意点
ピカチュウなどの日本のアニメのキャラクターなどの折り紙は、とても人気です。しかし、ミッション系(クリスチャン系)の学校では、宗教上の理由で学校内でモンスターの使用は禁止している場合があります。また、一般の学校でも「暴力的」という理由でモンスターが出るアニメの利用は禁じている学校もあります。
同様に「鬼」もdevil/demon(悪魔)ということで、使用を禁じている学校もあります。
どういった教材を使うかは、事前に学校に申告・相談の上、決めるとよいでしょう。
演じさせる(ロープレ)
シェークスピアなど演劇が盛んなイギリスの派生国(豪米・NZ・カナダなど)は、演劇が盛んで、高校生がプロ顔負けの演劇をイベントで披露したりします。演じることや踊ることなど、目立つことや自己主張が大好きな習性を利用しない手はありません。
人形を使う
五月人形・・・ではありませんが、パペットマペットのように、人形をつかって日本語で自己紹介をやり、生徒もそれをマネて日本語でやってみる、というものがウケがよかったです。いわゆる文字通り、ロープレ(ロールプレイング)ですね。人形はなんでもいいと思います。私はホームステイにあったバービー人形のようなものに勝手にタローという名前をつけて、「相撲が好き」という設定で服を着せないで登場させたら子どもたちはおもしろがってました。(KUさん、WA州パースの小学校で日本語教師アシスタント)
映画「それでも、愛してる(原題:ザ・ビーバー -The Beaver)」
鬱病になった主人公メル・ギブソンがふとしたきっかけでビーバーのパペット人形を手にとってから、主人公を取り巻く物事が好転していくヒューマンドラマ。あの「羊たちの沈黙」のオスカー女優のジョディ・フォスター監督作品。パペットセラピー効果のご参考に。
パペットを使ったコミュニケーション方法は、いわゆるパペットセラピーとして欧米でも効果的な心理療法の1つとして定着しています。
学校の教育現場でもスクールカウンセリングでパペットを導入したり、日本でも腹話術などが教育現場に取り入れられています。なかなか心を開かない外国人の生徒を相手にした日本語教師が日本語を教える際にも有効な手段の1つです。教師も別の自分(人形)になりきることで、さらに一皮むけるかもしれません。100円ショップなどでパペット人形などを見かけたら購入しておくとよいでしょう。
ファストフードのロープレ
オーストラリアにもあって、日本にもあるファストフード店の日本語のメニュー(チラシ)を持参して、それを元に日本語でファストフードの注文をするロープレは、元々が現地の人々に馴染みがあるものなので、効果的でかつやりやすいです。
これをきっかけに食習慣に違い、物価の比較、カタカナ英語など多方面に授業を展開できます。
日本旅行予約のロープレ
日本の国内旅行用のパンフレットなどを題材として、旅行代理店での日本旅行の予約などを日本語でロープレさせると効果的です。国内の観光地紹介や数字(値段)の勉強にもなります。
TVのレポーターのロープレ
- 日本語で「晴れ」「曇り」「雨」などを一通り教えた上で、テレビの天気予報(お天気キャスター)のロープレを日本語でさせる。または、現地で天気を伝えるレポーターとスタジオのキャスターのやりとりのロープレなど。
- 上記の同じ要領ですが、自然災害や事件、事故のTVレポーターとスタジオとのやりとりを日本語でさせる、など。
ロールプレイングには無限のバリエーションがあります。
視覚・聴覚・・・嗅覚も使う
日本の食事について授業をしたときに、日本からもってきた調味料(しょうゆ、ソース、みそ、マヨネーズなど)を子どもたちにかがせたのは効果的でした。オーストラリアの中国系のショップでも売ってはいるのですが、中には初めて目にする(臭う)ものもあったようで、子どもたちは興味深々のようでした。体中の五感をなるべく多く使わせる授業がいいみたいです。(RKさん、VIC州メルボルン郊外のカレッジで日本語教師アシスタント)
しんけいすいじゃく
3,4人ずつのグループに分けて、「しんけいすいじゃく」をしました。みんなこれが大好きです。
いろいろなバリエーションが展開できます。
- 1つのカードには「ひらがな」、もう一つのカードには「アルファベット」
- 1つのカードには「ひらがな」、もう一つのカードには「カタカナ」
- 1つのカードには「ひらがな」、もう一つのカードにはそのひらがなの「絵」を描く
などそれぞれ‘対’になったものを作り、文字が見えないように置き、裏返しては戻し、元あった場所を記憶して、次の人が対になったそれぞれのカードをめくって取っていく、というものです。盛り上がります。(MNさん、QLD州ブリスベン郊外のセカンダリーで日本語教師アシスタント)
色鬼(いろおに:IRO-ONI)
天気がよかったので、『色鬼』をしました。もちろん、全部日本語で。たまに外でおこなうと子どもたちも爽快になるようで、ふだんおとなしめの子どもや、反抗的な子どもも楽しそうに参加してくれました。日本語の「色」も覚えられるので効果的だと思います。でもある程度範囲(陣地)を決めておかないと、子どもたちはオーストラリアの広い広~い校内のどこかへ消えていなくなってしまいます・・・(KUさん、オーストラリア・WA州パースの小学校で日本語教師アシスタント)
※色鬼とは・・・色鬼とは限られた陣地内で、鬼が指定した色に手足など体の一部が触っていれば、セーフ(鬼につかまらない)というゲーム。鬼は「あか」「みどり」「あお」・・・等々、その都度、好きな色を指定します。
背中でひらがな伝言ゲーム
「背文字伝言ゲーム」(?)というのか、何という名称なのかはわかりませんが、以下のような流れです。
- 5人くらいを1組とします。
- 黒板の前に、黒板に向かって縦一列で並ばせます。
- まず列の一番うしろの人(黒板から一番離れている人)だけにお題「あ」などのカードを見せ、その文字を前の人の背中に指で書きます。(声を発してはいけません。)
- 背中で感じ取った文字を、さらに前の人の背中に書いて、最終的に、一番前の人が、黒板にその字を書きます。
黒板の前に2組ずつぐらいを2列に並ばせて、正確さと速さを競うと盛り上がります。
歌
歌は、ただ歌うだけだと食いつきがよくないです。振り付けがあると興味を示してくれる傾向があります。とにかく動くことが大切です。
世界に一つだけの花
Year8の生徒からSMAPのリクエストがあったので、「世界に一つだけの花」を紹介しました。歌詞はすべてローマ字でタイプして、CDを聞かせて穴埋めさせました(例:はな、きれい、いっしょうけんめい・・・などなど)。その後解答を言いながら、英語で歌詞の説明をしました。(HKさん、QLD州ブリスベンの小中高一貫校で日本語教師アシスタント)
→参考:[世界に一つだけの花(英語版)][ドイツ語版]
きらきら星
Year5と6の子どもたちに「きらきら星」を教えたら、想像以上にうまく歌ってくれて感動しました。歌詞は英語とひらがな、ローマ字の3種類の文字でタイプ打ちしたものを配布、英語とメロディが共通しているのですぐ覚えられるようです。歌えるようになったら、boysとgirlsにわけて、どちらがうまいか、competitionさせたらさらに盛り上がりました。(HKさん、QLD州ブリスベンの小中高一貫校で日本語教師アシスタント)
時間ゲーム
ichi-ji、ni-ji、san-ji・・・というカードを生徒の背中に貼り、「スタート!」の合図で「自分が何時なのか?」を友達に聞きながら、「ichi-ji」から「jyu-ni-ji」までの列を作る」というゲーム。盛り上がっているうちにあっという間に授業時間が終わりました。(JAさん、NSW州シドニーのセカンダリーで日本語教師アシスタント)
数字は語呂合わせで楽しみながら覚えさせる
日本語の数字は、語呂合わせで絵を見せながら、リズムを付けて、楽しみながら覚えてもらうと効果的です(視覚、聴覚、体感を使う)。例えば、
itch knee sun sea go rock switch hatch cool june ♪
(イッチ, ニー, サン, シー, ゴー, ロック, シチ, ハチ, クー, ジュー・・・)
というように、語呂合わせでリズムを付けて、併せて、
「1(ichi)・・・sounds like itch」(手がかゆい絵)、「2(knee)・・・膝の絵」といったような絵付きのカードを見せながら教えると吸収が早いです。
工作ものは大好き
「~してはいけません。/~してもいいです。」etc.文法の復習も兼ねて、学校のパンフレット作りをしました。制服のイラストなども書かせるとみんな一心不乱。そーゆー工作ものはみんな大好きです。あと、文法などを教えるwork sheetをさせなければならない時は、「ワークシートが終わったら折紙ネ!」と最初に言っておくと、みんな必死にワークシートに取りかかってくれます。(OSさん、メルボルンのカレッジで日本語教師アシスタント)
全員を参加させる
年賀状や暑中見舞い
全員参加型の授業は効果がありますね。日本の郵便について紹介したとき、年賀状や暑中見舞いを子どもたちに習った内容(漢字で名前や年月日など)をからめて作らせると、みんな“乗って”やってくれます。ただ、クラスによっては騒がしくなりすぎるので注意しなければなりません。(KMさん、ダーウィンのセカンダリーで日本語教師アシスタント)
ひらがなカード
まず、大きめのカードでひらがなが一文字ずつ書かれた「ひらがなカード」を生徒に数枚ずつ(人数によって)配ります。一人ひとり持っている「ひらがな」を確認したら、先生が単語(「すいか」とか)をcall out して、そのひらがなを持っている生徒に起立してもらいます。長い単語だともっと楽しいと思います。
このゲームの注意点は、全員、少なくとも1回は立つように、すべてのひらがなを網羅するようcall outする単語を準備しておかないと、「1回も立ってない!」と文句を言う生徒が出てきてしまいますので、均等にどの ひらがな もcall out するような単語のチョイスが大切です。(VIC州のセカンダリー・カレッジで活動)
何が出るかな♪何がでるかな♪
大きめのサイコロを作り、その6面に習った単語を英語で貼り付け、生徒にサイコロを転がさせます。止まった面の単語を日本語で答えられた生徒が次にサイコロを転がすことができる、というもの。低学年向けか?と思いきや、高校生にも使えました。サイコロをゲットした生徒は本当にうれしそうになげてました。
(TAさん、SA州アデレードの小中高一貫校で日本語教師アシスタント)
同プログラムにて、具体的に派遣される学校の一例は、こちらのオーストラリアの募集校をご参照ください。
上記はすべて日本語教師アシスタント・ボランティアになります。ボランティアではなく、有給の日本語教師になるには、こちらの「オーストラリアで日本語教師になるには」にまとめてありますのでそちらをご参照ください。
関連Q&A:もっと専門的に日本語教師を学び授業に活かしたい
Q. オーストラリアで日本語教師アシスタントをやっています。現地の子ども達に教えるうちに、自分はこの仕事が向いているかな、と思うようになりました。と同時に、私が子どもたちにおこなっている授業はこれでよいのか?もっとうまく教えられるようになりたい、と焦っています。そこでボランティアではなく、より本格的にプロの日本語教師を目指したいと今、考えているのですが、まだ活動期間が残っており、日本語教師アシスタントをしながら、日本語教師の資格を学べる方法はありますでしょうか?
↓
A. ご質問のように、日本語を教えるお仕事、日本人であることをいかせる仕事が日本語教師と言いますが。その日本語教師としての採用条件の1つに挙げられることが多いのが「日本語教師養成課程 420時間」です。その文化庁のシラバスに基づいた420時間課程が通信教育でオーストラリアでも学べる講座の詳細はこちらをご参照ください。
オーストラリアでも即役立つ英語で日本語を教える「間接法」も学べ、通信(Eメール/FAXなど)で添削指導を受けていくので、通信手段が確保できる場所なら、オーストラリアのどこからでも日本語教師アシスタントをしながら、またはワーキングホリデーしながらでも学習できます。実習風景をおさめた動画教材も充実しています。