以前、学校教員の方から、「公認日本語教師(現名称:登録日本語教員)」について、以下のようなご質問を受けたことがありますので、この場を借りてお答えいたします。
尚、「公認日本語教師」は、その後、「登録日本語教員」と名称が変更されて、審議されています。
質問:小学校教員から公認日本語教師へ
質問
Q.先日、県のある中小企業のビジネスを支援する公的機関から、「公認日本語教師(現名称:登録日本語教員)」の資格を持っていればぜひ、協力していただきたいとの連絡をから連絡をいただきました。
そこで お尋ねしたいのですが、私のような教職経験者が申請すれば「公的日本語教師」の資格がいただけるのか、ということです。国の暫定「公認日本語教師(現名称:登録日本語教員)」資格では、「その他経験者」との項目があります。
私は、小学校教員で四年制国立大学卒業であり、教員免許は「小学校の1種教員免許」と「中学校の1種教員免許(数学)」そして「高等学校の1種教員免許」を持っています。
また、欧州の日本人学校へ文部科学省派遣教諭として3年勤務し、さらに台湾の日本人学校にも教頭(副校長)として勤めてまいりました。台湾の日本人学校では、AG5の国際家庭での言語支援教材開発校として、東京の国立大学の先生方と事業推進を行ってきました。去る3月に任期を終え帰国し、現在、県の教育現場に携わっています。
私は、もうすぐ65歳を迎えますので、職に困っているわけではありませんが、田舎の限られた地域で少しでもお手伝いできれば良いなと思っています。必要ならば、履歴書をお送りいたしますが、資格申請でなければ必要ないことも理解しています。ご検討及びご回答をどうぞよろしくお願いいたします。
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回答:問合せ先の確認と可能性
回答
問合せ先の確認
まず、ご質問者様が『国の暫定「公認日本語教師(現名称:登録日本語教員)」資格では』と言及されていらっしゃる通り、こうした事案は、その制度の運営元、つまり国の所轄機関にお尋ねになるよう、常に心掛けてください。
それ以外のところにお尋ねになっても、そこが質問者様の資格等を判断する責任者でもなければ何ら担保するところでもありませんので、時間を無駄にするだけです。
もちろん、ネット上の質問サイトに質問するのは、さらに不確かな情報に振り回され、「百害あって一利なし」だけですので論外です。
個々の履歴によっても異なる事案ですので、必ず責任ある国の所轄機関に尋ねて確認することを習慣づけてください。
可能性(所感)
以上お断りした上で、あえて所感を申し上げますと、小中高校教員免許および関連する履歴をお持ちになっているというだけで、そのまま認められて「公認日本語教師(現名称:登録日本語教員)」になれる可能性は低いと思われます。
理由は以下の3点です。
- 日本人の子女への学校教育と、外国人への日本語教育はまったく異なる
- 過去の事例
- そもそも管轄が違う
1.日本人の子女への学校教育と、外国人への日本語教育はまったく異なる
まず1について。専ら日本人の子女に教える学校教育(日本語教育)と、外国人に教える日本語教育はまったく異なります。海外における日本人学校とて、外国人に教える教育とは異なってきます。
国語教師と日本語教師が異なるのと同じようなことです。文法解釈も「日本人に教える国語」と「外国人に教える日本語」は、同じ日本語でも異なります。そのため、420時間の日本語教師養成講座も、小中高校教員免許課程とは異なる部分があります。
むしろ国語教師としての日本語の知識が、日本語教師として働く場合、邪魔をすることもあります。
学習者のバックボーンも異なりますので、そのまま自動的にスライドして「登録日本語教員」になれる、というのは論理的に無理があります。
「逆」を考えてみる
また逆に「登録日本語教員」になれば、小中高校教員になれるのか?といえば「なれない」のと同じことだと考えるとわかりやすいかもしれません。
「これまで」を考えてみる
もし小中高校教員の免許で、そのまま「登録日本語教員」になれるのでしたら、すでにこれまでも小中高校教員というだけで日本語教師になれたはずです。しかしながら、(一部の管理が杜撰な日本語学校等を除き)これまでも基本的には、小中高校教員というだけで法務省告示の日本語教育機関における日本語教師にはなることはできませんでした。「登録日本語教員」制度が始まっても、そのあたりの基本構造はこれまでと変わりありません。
- 【関連記事】:登録日本語教員(日本語教師の国家資格?)になるには
2.ヒントとなる過去の事例
次に、2の過去の事例について。「認められる/認められない」のヒントとなる事例として、先日、以下のような報道がありました。
北海道東川の日本語学校、教員の半数資格無し 元校長ら
2020年6月23日
同校によると、今年度、授業を担当する15人のうち約半数の7人は要件を満たしていないという。うち6人は近隣の小中学校の元校長だった。
https://www.asahi.com/articles/ASN6R64SMN6RIIPE00X.html
この日本語学校は法務省告示校なのですが、そこで「小中学校の元校長」だった人が、つまり、小学校教員免許や中学校教員免許しか持っていない人が日本語教師をやっていて、それが法務省の外局である出入国在留管理庁から「(日本語教師の)資格の要件を満たしていない(小中学校教員免許だけでは日本語教師の資格としては認められない)」と指摘されたという事例です。
国家資格(登録日本語教員)化されても、この基本ラインは維持されるので、この事例からも、「小中高学校教員の免許を持っているだけでは、そのまま登録日本語教員にはなれない」ということがわかります。
3.そもそも管轄が違う
そもそも管轄が違います。小中高校の教員の管轄が文部科学省であるのに対し、登録日本語教員の管轄は法務省です。
なぜなら登録日本語教員の勤め先は、専ら外国人へのビザ発給を必要とする、法務省告示機関(いわゆる日本語学校と呼ばれているところなど)であり、そこでは外国人の違法就労や違法滞在、失踪、犯罪などのシビアな問題も関わってきます。
登録日本語教員という職は、入管法の枠組みの中にあるものであり、それゆえ、法務省が管轄となります。
同じ「教員(教師)」という単語が使われていても、そもそも性質や管轄が違いますので、混同は禁物です。
結論
以上から、お持ちの履歴は、「登録日本語教員」制度が始まったとしても、
- 「登録日本語教員」としては認められない
- もしくは、制度が運営されるに従って、ゆくゆくは、一部だけ考慮される(例外的に「登録日本語教員」になるための過程は一部免除され、所定の課程・・・例えば教育実習や一部の座学など・・・のみを受ければ「登録日本語教員」になれる)
という「可能性」は考えられますが、いずれにしても、小中高校教員が、すんなりそのまま「登録日本語教員」になれることはないでしょう。
そして、万が一(仮に)、一部考慮されたとしても、それはあくまで「例外的」なものであり、個々で異なる履歴によって、同じような履歴でもまったく認められない人もいれば、考慮される人も出てくるかもしれませんので一概に言えることではありません。
また、登録日本語教員(国家資格)制度が十分に浸透した遠い将来にはどうなるかはわかりませんが、制度が始まってから少なくとも数年は確たることが言えない混沌として状態が続くものと予想されます。
いずれにしても、前述の通り、こうした重要で複雑な事案は、その制度の運営責任者、つまりこのケースでは国の所轄機関にお尋ねください。