求人殺到

新型コロナウィルス感染症と最近の日本語教師に関する動向を、主に弊社のウェブサイトのアクセス解析などをもとに、弊社が関わる範囲を中心にまとめてみました。

求人激減と一部求人へアクセス集中

当たり前といえば当たり前ですが、全体的に日本語教師の求人数は激減しています。日本語教師は外国人および海外との往来にほぼ100%、依存する仕事だからです。

どの求人サイトをみても、現時点で、日本語教師の求人数はおよそ半減かそれ以下です。改めて、日本語教師を本業とすることのリスクを痛感された方も多いでしょう。

特に「学校」というハコモノに生徒を集めて授業をおこなう、という3密(密閉・密集・密接)の旧態依然の日本語学校に関しては、かなり厳しい状況になっており、各国または日本の入国制限・出国制限、そして緊急事態宣言による自粛要請などの二重・三重パンチで、生徒(留学生)を日本に迎え入れることができず(既存生徒も帰国してしまい)、学校は閉校、日本語教師には待機か解雇を言い渡さなければならず、日本語教師の採用(求人)どころではない、といった模様です。

休業補償や雇用調整助成金

日本語教師や日本語学校に関連して「休業補償」や「雇用調整助成金」などのキーワードで検索する人も増えていることから、休業補償や雇用調整助成金を必要としている日本語教育関係者は多いようです。但し、計算の元になる額がそもそも少なかったり、支給の迅速性がなかったりして、即効性のある支援には結びついていない模様です。

PCR検査

数少なくなった求人情報の中には、世相を反映して「PCR検査」という文言も見かけるようになりました。海外の学校で、採用を熱望している学校などでは、PCR検査は学校(勤務先負担)としているところもあります。

また、アジア圏などでは赴任するにあたり、指定の予防接種などを受けなければならないのですが、コロナ禍で現地の病院では予防接種が受けられないため、日本で済ませていかなければならない、結果的に赴任時期が大幅に遅れる・・・など、コロナ禍ならではの日本語教師就職の難しさが生じてきています。

日本語教師に求められるオンライン授業スキル

激減した通学型日本語学校での日本語教師の求人ですが、オンライン授業に活路を見出し、何とか学校を存続させようとしているところがあります。そうした学校の求人では、日本から現地にいる学習者に日本語を教えるため、オンライン授業のネットワーク知識とスキルに長けた即戦力となる日本語教師が求められることが多くなってきています。今後は、パソコン等ITが苦手な日本語教師にとっては、ますますやりづらい職業になってくるかもしれません。

オンライン日本語教師へ殺到

通学型日本語学校が壊滅的な状況の中、どこかで需要が減れば、どこかで需要は増えるもので、そのような「物理的な人の移動」はあまり関係ないオンラインで教える日本語教師にとっては、むしろ新型コロナウィルスは追い風となっており、需要は増えています。

しかし、その需要を上回る供給が生じており、オンラインの日本語教師の新規の求人を出すと、応募が殺到してパンクし、掲載から24時間経たずして急きょ、応募受付を停止せざるをえないような事態が発生しています。

みなさん考えることは同じで、日本語学校で職を失った日本語教師のみならず、日本語教師以外の一般の失業者が「もしかしたらオンラインのお仕事だったら、日本語教えるくらいだったら自分でもできるんじゃない?」とあらゆる方向から応募が殺到したことが原因と考えられます。

オンラインの求人は全般的にアクセス増ですが、特にハードルが低いもの、例えば「資格は必ずしも必須ではなく、外国人のお話し相手になるだけでもいいもの」などの余地がある求人は応募が殺到する傾向があります。

アクセスグラフ

実際、弊社のオンライン日本語教師に関する「ある1ページ」だけを切り取ってみても、2月→3月→4月と新型コロナウィルスの状況悪化に伴い、数千レベルでアクセスはうなぎ上りで(上グラフ)、毎秒5人~10人は常に閲覧者がいるような状況です。

時間帯にもよりますが、リアルタイムで計測していると、弊社のウェブ(ホームページ)アクセスの上位10位のうち、半分近くがオンライン関係のページで占められることも、最近は珍しくありません。

オンライン系アクセス

また、2020年6月現在でも、オンライン授業を提供する機関は盛況のようで、以下のような求人掲載の依頼も受けています。

新型コロナウィルスの影響で、通学校からオンライン校に切り替える方が激増し、より良いサービスを行いたいと思っております。つきましては、来年度に向けて求人情報を更新したくご連絡いたしました。よろしくお願いいたします。(6月/オンラインスクール)

以上のように、日本語教師に関しては、明らかに「オンライン系」に人々の関心は集中している現状です。

新型コロナウィルスに限らず、大震災や気象災害など、日本では10年に1,2回のペースで、こうした大きな災難に見舞われますので、今後は日本語学校などもオンライン授業などをうまく取り入れた事業展開をしていかないとすぐにまた経営危機に陥ることになります。

また日本語教師も副業等でうまくリスク分散させておくことを常日頃から心がけておかないと、突然の失職のリスクと不安に永久につきまとわれることになるでしょう。
→参考:日本語教師が副業で分身に稼いでもらう方法

広告単価も急落

飲食店や学校など物理的な店舗等へ第一波が押し寄せた後、現在では第二波が、目に見えない業界、例えばネット上の広告ビジネス業界にも押し寄せています。

例えば、ある日本語教師養成講座の運営会社のASP(アフィリエイト・サービス・プロパイダ)での、広告単価(成果報酬)が5分の1程度に急落しました(下図)。

アフィリエイト単価変動

これはアフィリエイトだけでなく、一般の広告にも言えることで、例えばYouTubeに表示される広告も、最近は広告ではなく、広告への出稿をうながすGoogleやYahooの広告のほうが多くなってきているように見受けられます。それだけ、不況で広告量が減ってきており、広告主を集う必要が生じてきている、ということの現れなのでしょう。

YouTuberなどから「広告単価(収入)も落ちてきている」との報告がネット上にもたくさん上がってきており、2019年に始まったYouTubeバブルも「競争過多+不況」で弾けようとしています。

新型コロナウィルスに起因する不況は、時間差こそされ、第二波、第三波として、あらゆる業界に浸透していっている最中のようです。

日本語教育能力検定試験にも影響

新型コロナウィルスは日本語教育能力検定試験の実施にも影響を与えています。現時点では出願期間や願書販売時期、試験会場に例年とは異なる変更が生じており、今後の状況次第では、今年度は中止(試験は実施されない)可能性もあるとのこと。
詳しくは、こちら新型コロナウィルスの日本語教育能力検定試験への影響のほうにまとめてあります。

通学講座も厳しい

日本語学校だけでなく、通学の日本語教師養成講座(420時間の文化庁届出受理講座)等も厳しい現実に直面しています。どの学校も3密を避け、消毒・換気の徹底などで対応していましたが、通学講座はどうしても長期間に及んでしまうため、生徒数減少または休講となったところも多いです。

日本語教師養成講座のカウンセリングや無料説明会への参加者も激減、経営状況の厳しさは、前述の広告単価の削減からもわかります。

さらに厳しいのは、日本語教師の今後に暗雲が立ち込めている点です。日本語学校が安定的に開けないような状況では、いくら文化庁届出受理の日本語教師養成講座を修了して有資格者となったとしても、その先がかなり不透明だからです。

文化庁届出受理の日本語教師養成講座は、昨年12月6日から5ヶ月以上に渡って、もう更新はありません。新型コロナウィルスの以前から、日本語教師養成講座はすでに飽和状態で、生徒が集まらず開店休業状態だった講座もあったところに、このウィルス騒動なので、これからの通学講座運営もかなり厳しいものになる(淘汰が進む)ことが予想されます。

堅調な通信講座

先月、こちらのお知らせでもお伝えしましたように、相変わらず、こちらの通信の日本語教師養成講座のお申込みが堅調で、1日お一人以上のペースでお申し込みをいただいています。

その理由としては、

  • 3密(密閉・密接・密集)の通学講座ではないので安心
  • 自宅待機の時間を有効に使いたい
  • オンラインで日本語を教えることになったので/オンライン日本語教師をやりたいので
  • 不況になると「手に職を」で資格などの学びごとに人々の関心がいく
  • ドル安で受講料が安くなっている(12万円前後)

といった点が挙げられ、実際に受講動機にその旨、おっしゃる方もいらっしゃいます。

好況期には「遊び・レジャー」系の需要が高まるのに対し、不況期には「学び・資格」系へ人々の関心が集まる傾向があります。
以前のリーマンショックの時も、通信講座へのお申込みが殺到しました。今はその時のデジャブを見ているようです。

日本語教育能力検定試験についても通学よりも「独学」方法にアクセスが集中しています。

今後は

新型コロナウィルス自体は、いずれ収束しますが、それでも2年近くは影響を引きずるものと思われます。

このコロナ・ショックの有無に関わらず、10年~20年のうちにシンギュラリティで世界は大きく様変わりします。5Gはその一歩となります。

何かを習うのに(情報を右から左へ移動させるのに)、わざわざ学校というところに出向いて、1教員に大きく質を依存した授業を、教室で受けなければならないという現行システム自体が極めて原始的で非効率です。

シンギュラリティとともに、「学校」「会社」というものも、あくまで書面上の存在にすぎなくなり、週5も通学(通勤)する必要もなくなり、もしどうしても物理的に「通学」しなければならなかったとしても、それは週1,2回程度でOK、ということになるでしょう。

日本語教師に関しても、将来的には、より少人数でまわせるようになりますので、それほど数は必要ではなくなってきます。
例えば、授業に関しても、1人の優秀な先生の授業の動画をオンラインでシェアするか、A.I.メインで授業を展開し、補足部分を少しフォローすればよいだけになります。

そうでなくても、日本経済および日本企業の衰退で、日本語の需要は今後も落ちていきます。
→参考:日本語教師の給料が低い理由

形よりも実や速度が重視される世の中において、形式を重視した昨今の日本語教師の国家資格化(登録日本語教員制度)が、逆に足かせとなって、新しい世界への移行が遅れてしまうのではないか、と危惧しております。

今回の新型コロナウィルスは、リモートワークその他、もうすぐやってくる未来を少しのぞかせてくれていますので、日本語教師も今後は、日本語学校依存だけでは危うく、個人である程度やっていけるだけの知識とスキルを培っていく必要があると考えます。

(C)Copyright JEGS International Co.,Ltd. All Rights Reserved.