日本語教師と英語力

質問
Q1. 日本語教師は英語力は必要ですか?日本語教師としてやっていくには英語が話せることが必要か知りたいです。

回答
A. 結論から言うと、(どこで働くかによっても大きく異なりますが)日本語教師は英語力はあるにこしたことはありません。英語力とは「話す」だけでなく、「文法力などの知識」も含めます。

働く場所や形態によっては、

  • 英語力は完全に必須のところもありますし、
    (そもそも求人票の段階ですべて英語で書かれている場合もあります、)
  • 英語以外の外国語力が求められることもあれば、
  • 英語力はまったく求めない職場

もあります。但し、英語(外国語)ができるからといって、日本語教師になれる、というわけでもありません。

以下、大きく3つのパターンに分けて説明します。

  1. 日本国内で働く場合
  2. 海外・・・アジア圏で働く場合
  3. 海外・・・欧米圏で働く場合

1.日本国内で働く場合

法務省告示機関(日本国内の日本語学校など)といった狭い範囲で働く場合は、英語が非母語者のアジア系の生徒を同じ教室に詰め込んで、「日本語で日本語を教える直接法」で授業をすることがほとんどですので、教室では英語力を求められることはそれほどありません。
専ら国内の日本語学校の日本語教師はアジアから来た生徒らの「お世話係」と言っても過言ではないお仕事です。

但し、

  • 法務省告示機関(国内の日本語学校)でも事務や学校運営スタッフは、英語力や中国語、ベトナム語力を求める求人がほとんどを占めます。
  • 法務省告示機関(国内の日本語学校)の日本語教師であっても、日本語学校の運営(生徒募集・誘致等)や進路指導など携わる範囲が広くなるほど、英語力その他外国語力(その学校の多数を占める国籍の生徒の母語力)は必須となってきます。

日本語学校の就職試験

しかし、そんな日本国内の日本語学校(法務省告示校)でも就職試験にて、以下のような英語力を求める問題が実際に出題されることもあります。

Q.日本語学校を辞めようか悩んでいる主旨の生徒の手紙(英文)に、担当教員として英語で返事を書きなさい。(国内の法務省告示校での筆記試験にて出題)

このように、例え求人の応募資格に英語力の記載がなくても、日本国内においても英語力を求められる機会に突然遭遇する場合もあります。

また、日本語を教える過程で、「共通の外国語である英語」と日本語を対比させて教えると、アジア圏出身の学習者にも、より分かりやすく伝えることができる場合がありますので、頭の引き出しは多いほうがよい、つまり英語の知識はあるにこしたことはありません。

以下、ご参考までに日本国内の学校での日本語教師の求人に掲載された英語に関する募集例です。

求人例1:東京の日本語学校(法務省告示校)
非常勤講師:EJU理系科目や受験英語を教えられる方尚可

求人例2:東京の語学学校
日本語教師(フルタイム):英語でのコミュニケーションができる方(流暢でなくてもかまいません。)

求人例3:沖縄の語学学校
日本語教師(常勤および非常勤):要英会話(意思疎通ができるレベル)※生徒(日本語学習者)のほぼ90%が英語母語話者。

求人例4:東京の専門学校
日本語教師(非常勤):「日本語」以外で、専門学校生が基礎として学ぶ(大学1年生相当レベル)の分野(例えば「英語(TOEIC・TOEFL等)」など)で、講義可能な科目がありましたら、複数科目が担当可能。

また、日本語学校の事務は英語力(や中国語・ベトナム語力)が求められていることが多く、日本語教師であっても募集や進路指導に少しでも関わる場合、外国語力が求められます。つまり国内の日本語学校であっても、実際は英語力があったほうが良い環境であることが分かります。

採用で重視するポイント

ちなみに「日本語教師になるための学校ガイド」(イカロス出版)では「日本語学校へのアンケート」結果にて、「日本語学校が採用で重視するポイントランキング」に、「英語などの外国語力」を挙げています。

学校ガイド

日本国内の日本語学校の求人情報の応募資格に「英語力」が記載されていなくても、採用担当者は英語などの外国語力も評価していることがうかがえます。

文部科学省「日本語教員として望まれる資質・能力」

また、文部科学省の「日本語教員として望まれる資質・能力」にも以下のように指針されています。

日本語教育のための教員養成について(報告)(抄)
-日本語教員の養成に関する調査研究協力者会議

日本語教員に求められる資質・能力として,次のような点が重要であると考える。

日本語教員としての基本的な資質・能力について
日本語教員として望まれる資質・能力として、まず基本となるのは、日本語教員自身が日本語を正確に理解し的確に運用できる能力を持っていることである。その上で、これからの日本語教員の資質・能力として,次のような点が大切であると考える。
(ア)言語教育者として必要とされる学習者に対する実践的なコミュニケーション能力を有していること。
(イ)日本語ばかりでなく広く言語に対して深い関心と鋭い言語感覚を有していること
(ウ)国際的な活動を行う教育者として,豊かな国際的感覚と人間性を備えていること。

日本語教員の専門的能力について
次に,日本語教育の専門家として,個々の学習者の学習過程を理解し,学習者に応じた適切な教育内容・方法を判断し,それに対応した効果的な教育を行うための,次のような能力を有していることが大切である。
(ア)言語に関する知識・能力
外国語や学習者の母語(第一言語)に関する知識,対照言語学的視点からの日本語の構造に関する知識,そして言語使用や言語発達及び言語の習得過程等に関する知識があり,それらの知識を活用する能力を有すること。
文部科学省 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t20000330001/t20000330001.html

以上から、広く長く日本語教師をやっていく場合は、英語を筆頭とした外国語能力は避けては通れないものと言えるでしょう。

日本国内でも英語力が必要な場合

上述のように、国内の法務省告示の日本語学校でも、採用試験の際などに英語力が問われる試験が出されたりもしますが、その他、日本国内の日本語教師の求人でも、例えば、

  • 欧米圏の生徒の割合が高い日本語学校(の中の特定のクラス)や語学学校
  • 外国語学校やインターナショナルスクール
  • 米軍基地勤務の日本語教師
  • 成田空港など外国人が多い職場の従業員に教える日本語講師
  • 外資系企業に出向して日本語を教えるマンツーマンやグループレッスン
  • 海外の学習者にインターネットで教えるオンライン日本語講師の求人

・・・などでは英語で日本語を教えられること(間接法教授ができること)が採用条件として求められている場合が多いです。こちらの英語力をいかせる日本語教師の求人情報などで具体的な募集事例をご覧いただけます。

また、外国語学校やインターナショナルスクールなどでは、校内の言語が英語であることが義務付けられていたり、職員室での他の教員との会話が英語のほうがスムーズな場合もあります。

2.海外・・・アジア圏で働く場合

海外でもアジア圏で日本語教師として働く場合は、(アジアの非英語圏で働く場合は)直接法で教えることが多いため、英語力を求められることはあまりありません。

アジア圏でも英語力が必要な場合

但し、就職先がアジアであっても、インドやシンガポール、フィリピンなどでは日本語教師にも英語で教えられるスキルが採用条件で求められていることが多いです。

「直接法で教えるからアジア圏でも日本語教師は英語は必要ない」との意見もありますが、実際の求人情報では以下のように採用条件に課しているものもあります。

日常会話レベルの英語を話せる方。
(授業は直接法で行います。英語で質問された場合に答えられる程度の英語レベルを必要とします。)※マレーシア・クアラルンプールの語学学校の2018年の求人より

シンガポールの日本語教師の求人で実際にあった事例
また、シンガポールの語学学校で、英語もできる(バイリンガル)日本語教師を募集したところ、英語ができない人からの応募があまりに殺到したため、辟易した採用担当者が、

We have changed the listing from Japanese to English as we’ll need successful candidates to be bilingual in both Japanese and English.(2021年1月の求人)

とのことで、急きょ、求人情報全文を英語表記に変えて、英語が読めない日本語教師は応募できないようにした事例も発生しています。

その他、シンガポールの日本語教師では以下のような体験談をお寄せいただいたことがあります。

シンガポールでの日本語教師経験談
私は2年ほどシンガポールに住んでいた時に日本語教師のアルバイトをする機会がありました。週3日で1日一コマだけでしたが、大変でした。初級のクラスだったので、授業は全て英語でした。日本での日本語教師養成講座を勉強すると用語などが全て日本語ですので、それをどうやって英語で説明するのか悩みました。簡単な文法を説明することすら難しかったです。生徒さんの将来を考えたら、無責任なことはできないし、日本語教師も英語で教える方法など、あらゆる学習者に対応できるよう、しっかりと勉強をしておかないといけないと思いました。

職員室での共通言語
その他、アジア圏の大手の語学学校勤務の場合は、フランス語やスペイン語、英語など各国語の授業を展開してますので、世界各国からいろいろな国籍の語学講師が勤務しています。そんな他の講師とティーチャーズ・ルーム(職員室)やミーティングで打ち合わせなどをする際には世界での共通語である英語が必然的にコミュニケーション手段の言語となりますので、英語はできたほうが良いです。

3.海外・・・欧米圏で働く場合

海外でも欧米圏で教える際には、(アジアのように日本語で日本語を教える直接法ではなく)英語やその学習者の母語(例えばドイツならドイツ語)で教える間接法での教え方が一般的ですので、英語力などの外国語能力が求められることが多くなります。

実際に、ニュージーランドのカレッジで日本人の日本語教師を募集した際、

I am interesting Japanese.

と応募書類の履歴書の自己PRの箇所に(間違った英語を)書いて、不採用となった事例もあります。このように、提出書類の段階から、ちょっとした英語の間違いも不採用につながってしまいますので、くれぐれも注意が必要です。

もちろん、日本語教師が現地で生活する上でも、英語その他、その国の母語能力が必要となってくることは言うまでもありません。

その他 英語と日本語教師関連のQ&A

海外では英語の教員免許を持っているのか?

Q2. 海外で日本語を教えている日本語教師の方は英語の教職免許はお持ちなのでしょうか? 日本語教師を海外でするには、高校や中学の英語の教職資格はとっておいた方が有利なのでしょうか?

A. 上のQ1と同様ですが、日本語教師をやっていく上では必ずしも「中学や高校の教員免許」は必要ありません。むしろ英語の教員免許に関しては日本語教師とはあまり関係ないことがほとんどです。

但し、海外の日系の教育機関(日本人学校や補習校など)でも日本語教師を募集することがあり、その場合は、「外国語としての日本語」というよりは、「国語としての日本語」を教えるスキルが求められているため、日本語教師の資格に加え、国語の教員免許を持っていると有利に働くことはあります。

いずれにしても日本語教師をやっていく上で、教員免許を持っていても、得をすることはあっても損することはありませんので、もし教員免許を取れる機会があるのなら、英語に限らず、国語などいろいろな科目の免許を取得しておいたほうがよいでしょう。資格や免許は一度取得しておけば、あとは税金も維持費もかかりませんので、得こそすれ、不利はありません

履歴書には英語の資格は書くべきか?

Q. 日本語教師の履歴書にTOEICのスコアや英検の級は書いたほうがいいですか?

A. はい、書いたほうがよいです。語学系や教員免許など関連する資格や経験はなるべく書くようにしてください。また、できればTOEIC(トイック)はスコア700点以上、英検は2級以上を最低限クリアしておくよう、努めてください。英語での一般的な日常会話能力や海外生活を始めるにあたっての最低限必要とされる英語力はおよそTOEIC700以上、英検2級以上が多く、またそれ以下でスコアや級が低くなるほど、同じレベルの方も多くなるので、資格としての希少価値は薄まっていきます。

その他、意外と書くべきなのが「普通自動車運転免許」です。日本語教師はローカルの学校などは車で出向しなければならないケースがありますので、語学系とは関係のない資格ですが、履歴書には書いておいたほうがいいでしょう。

国内で日本語を英語で教える方法を学びたい

Q. 国内の日本語学校に勤めてますが、この度、クラス増員で欧米圏(専ら英語母語者)の生徒のクラスが編成され、英語で教えることになりました。英語での教授法を学ぶよい方法はありますでしょうか?

A. 「英語で日本語を教える方法」を間接法と言いますが、こちらの日本語教師養成420時間の通信講座では、間接法も学習できます。英語圏での日本語教師指導歴20年以上の日本人講師が担当します。

ご参考までに、この講座を受講された方の受講動機や体験談(感想)の一部をご紹介します。

欧米系の初心者は間接法を希望することが多い
英語で、日本語の事を考えたことがなかったので新鮮でした。欧米系の方は0スタートの際、英語を媒介語として希望する事が多いが、なかなか答えられる事ができませんでした。
それが、この講座を受けることで英語で教える方法も知ることができたし、Group3しか知らなかったのが14 model verbs(14代表動詞)を学ぶことができたので、自分の知識の幅も増やすことができました。すごくおもしろかったです!(静岡県ご在住の29歳女性、オンライン日本語教師)

国内の日本語学校勤務だが英語力を上げたい
日本語教師をしています。日本語学校での研修のため、英語力を上げたいと思っています。(福岡県ご在住の33歳女性)

韓国でも英語を使ったほうが理解してもらいやすい
(韓国にて)日本語を教えて4年になるのですが、特に、「あいうえお」から初めて学ぶ方がたには、英語を使って時々説明した方が理解してくださることが多かったです。4年も韓国にいながら、韓国語の習得ができていなくてお恥ずかしいのですが、こちらの生活の中で、英語で会話することもあります。英語で日本語を教える方法についても学べるという事で、私にとって、特に初めて(日本語を)学ぶ初級者の為にとても役に立つと思いました。(韓国・ソウルご在住の38歳の女性)

英語(間接法)だとワールドワイドに教えられる
すでに日本語の生徒を数人持っており、受講を始めた後にも増えました。学んだことを生徒たちに自信を持って教えられるようになったので、生徒からも新米先生とは思えないという声をいただきました。
また、私はすでにある程度習得している中国語や英語でその母語者に教えることができているので、こちらのメソッドがとても良かったです。
最近はエクアドル人やインド人から習いたいとのオファーがあり、やはり英語が話せて教えられる方がワールドワイドに活躍できると思いました。(神奈川県ご在住の43歳女性、オンライン・ZOOMで日本語教師の講座修了感想文)

教えられる生徒の国籍の幅を広げたい
すでに日本語教師をしておりますが、更に教え方をしっかり学びたいと思い、受講を希望しています。現在は主に中国人の学生さんに日本語を教えておりますが、他の国の学生さんに英語で日本語を教えられるようになるのが今の目標です。(広島県ご在住の48歳女性)

英語で教えられる日本語教師になりたい
現在、非常勤日本語教師として仕事をしており、1年以上の経験があります。前職は外資系金融機関で英語を使っておりました。なるべく安く、早く終了を目指して、方法を模索しておりました。(東京・江戸川区ご在住の49歳女性)

英語で教えるほうが効率的なので
現在、京都の日本語学校で教えています。今年の10月より大学でも教え始めました。大学では一人で40人近くを教えています。こちらは決まったカリキュラムがなく、自由なのですが、英語で教える方が効率的だと思うことが多く、貴校を見つけました。今まで日本語学校では直接法でやってきました。楽しみにしています。(京都府ご在住の50歳女性、日本語教師/日本語教育能力検定試験合格者)

公用語の英語を頼りにするしかない時がある
教える相手は外国人です。学習初心者とのコミュニケーションツールは公用語の英語を頼りにするしかないため悪戦苦闘します。間接法が学べたことがとても有意義でした。(岩手県ご在住の51歳女性の講座修了体験談)

英語と日本語の対比は言語理解に役に立った
本講座を学習する中で、日本語のいろいろな側面を理解できたこと、外国語、特に英語との比較で日本語の特徴・特色を理解できたことは、日本語を教えるためだけではなく、自分が日本語を使う上で、また他の外国語を学ぶ上でも非常に役立つ知識になりました。(オーストラリア・NSW州ご在住の59歳男性)