社会情勢の変化が激しい現在、今は日本語教師を目指すのはやめたほうがいい理由が何点かあります。 尚、当ページは、
- これからゼロから登録日本語教員(国家資格)になろうとしている
- 「法務省告示の日本語教育機関(認定日本語教育機関)」で働こうと考えている
の2点を満たす方を念頭に書いてあります。 すでに日本語教師をされている方や「法務省告示の日本語教育機関/認定日本語教育機関」以外で働こうと考えている方には該当しません。
理由1.制度の過渡期による混乱
法務省告示校は大丈夫なのか?
日本国内においては、外国人の不法就労・不法滞在等の問題を受けて、日本国内の日本語学校を取り締まるために、2017年から法務省が日本語学校を管理する「法務省告示校」制度が始まりました。
それに伴って、「法務省告示機関」で働く日本語教員には、「新基準」にそった資格が求められるようになりました。
では、その「法務省告示校」制度で良くなったのか?というと、2024年にも以下のような事件が起きています。
不正入国援助の疑い 日本語学校の事務局長とブローカーを逮捕 中国籍の女に留学ビザ取得させ営利目的で入国させたか
2024年10月8日 19時42分 FNNプライムオンライン
不正入国を援助した疑いで、日本語学校の事務局長らが逮捕されました。
警察は8日、東京・文京区にある日本語学校を家宅捜索しました。
https://news.livedoor.com/article/detail/27333647/
上記の「東京・文京区にある日本語学校」というのは、法務省告示校のリストに載っている日本語学校です。
これは氷山の一角なのかもしれませんが、長年、日本語学校につきまとっていた問題が今も解消されておらず、「法務省告示校」であっても、相変わらず、安心・安全とは言えないようです。
法務省告示機関 → 認定日本語教育機関
そんな状況を立て直す意味も含め、2024年から「登録日本語教員(国家資格)」含む、「認定日本語教育機関」制度が始まりました。
しかしながら、新たにスタートした「認定日本語教育機関」の第1回第1期審査として、非常に厳しい条件のもと行われ、申請総数72件の中から認定されたのは22件に留まりました。
認定日本語教育機関の認定結果(文部科学省)
- 申請機関総数 72件
- 認定とした日本語教育機関 22件
- 不認定とした日本語教育機関 3件
- 審査中に取下げを行った日本語教育機関 36件
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/attach/1420729_00017.htm
既存の日本語学校(法務省告示校)のうち、「認定日本語教育機関」の条件を満たす日本語学校は、22校しかなかったそうです。
これから登録日本語教員(いわゆる日本国内の日本語学校の日本語教師)を目指す人で、ブラックな勤め先をできる限り避けたい人は、「法務省告示機関」から「認定日本語教育機関」への淘汰が落ち着いてからにしたほうがよいかもしれません。
「生徒の逃亡率0%」!?(技能実習生送り出し機関)
日本国内の日本語学校の他に、登録日本語教員が関わることが多いのが海外含めた「技能実習生送り出し機関(現地の日本語学校)」ですが、その「技能実習生送り出し機関」の中には、「生徒の逃亡率0%」を売り(謳い文句)にしている日本語教育機関さえあります。
逆に言うと、「逃亡してしまう(行方不明になってしまう)技能実習生が多い」ということを示唆しており、日本語学校や技能実習生送り出し機関に関わる日本語教師は、こんな職場環境であるという現実を、事前に重々、認識して覚悟を持って臨んだほうがよいでしょう。
日本で犯罪を犯している外国人について、技能実習生なのか?日本語学校の生徒なのか?大学や専門学校などの留学生なのか?在日外国人(社会人)だったのか?まで報道されることはほとんどなく、たまに「捕まったのは日本語学校の生徒」とまでは報道されても、「どこの日本語学校なのか」までは報道されることはありませんが、該当者の内情を知っている日本語教師がいたら、辛い思いをしていることでしょう。
単に憧れだけで日本語教師になってしまうと、理想と現実でのギャップに驚き、日本語教師の離職率の高さに貢献してしまうことになります。
理由2.資格がわからない人が多い
前述の通り、2024年から始まった登録日本語教員(国家資格)制度ですが、その資格について分かっていない(理解できない)人があまりに多いのが現状です。
国が発表している図解のルート等を見ても、
- これからゼロから目指す人→自分がどのルートで、何を取ればいいのか分からない
- 現職者(現役の日本語教員)→自分がどの経過措置に該当するのか?そもそも経過措置に該当するのか?さえ分からない
- それを発表している責任元である国に問い合わせて確認することすらしない→なぜかネット上の、どこの馬の骨かも分からない情報にすがろうとする
そんな人たちからの質問が相次いでいます。ネット上も含めると相当なもので、SNSを中心にネット上の嘘・間違い情報に踊らされて、さらに悪循環に陥っている人も見かけます。
「国家資格」なので、「国が発表したものを理解できるか(理解できる頭があるか?=理解できる頭でなければならない)」「もし理解できなければ国の適切な部署に問い合わせできる能力があるか?」が求められている、と言ってしまえばそれまで・・・その段階からすでに選別は始まっていることに気づかなければならない・・・のですが、もし制度について分からないのであれば、今は登録日本語教員(狭義の意味での日本語教師)を目指すのはやめておいたほうがいいでしょう。
理由3.円安
円安が長らく続いています。以前は、海外でマイナスなことが起きると「比較的安全とされる資産の円が買われ・・・」という定型句とともに円が買われ、すぐ円高方向に振れていたのですが、最近は海外の動向関係なく、円安(円の価値の低下)のままです。
インバウンド外国人観光客が多いので、「日本語の需要=日本語教師の需要は、今後右肩上がりだ!」と勘違いしている人もいるようですが、日本語教師のお客様となる日本語学校の生徒や留学生、技能実習生にとっては、インバウンドとはまったく逆で、円安は深刻な問題なのです。
- 技能実習生・・・日本での稼ぎを当てにしている
- 日本語学校の生徒や大学等の留学生・・・例え大学等進学目的であっても、学費や生活費の補充のためにバイト等就労での稼ぎを当てにしている
つまり円安が続くと、日本でいくら稼いでも稼げない。同じ1時間働いても、海外だと日本の2倍、3倍稼げる。「日本じゃなくて他の国にしておけば良かった。」とTVでのインタビューで答えている外国人生徒もいました。
このまま円安が続くと、日本語学校の生徒の集客数、技能実習生の数にも影響が出てきますので、そういう将来性の観点からも、今は登録日本語教員(狭い意味での日本語教師)になるのは、一度熟慮したほうがよいでしょう。またコロナ禍の時の日本語教師のような悲惨な状況になりかねません。
理由4.チャイナリスク
これはコロナ禍よりもさらに深刻なリスクですが、日本近郊では、台湾周辺で中国との戦争ないし紛争が起こる可能性が高まっています。
日本の日本語学校(法務省告示校/認定日本語教育機関)は、中国からの留学生にあまりに大きく依存しすぎています。
日本国内の日本語教育業界の全体としては、50~60%ほどが中国からの学習者に依存しています。個別に見ると、日本語学校によってはほぼ100%が中国人留学生で占められている日本語学校も少なくありません。
ある意味、(特に日本国内の)日本語教師は「中国 依存ビジネス」といっても過言ではありません。
戦争ないし紛争が起きると、当然、中国は強行的に日本への渡航を禁止しますし、中国国内でも「日本語教育禁止」といった措置が取られることは安易に想像できます。
直接的ないし間接的に戦争が始まると、中国人学生に偏重著しい日本国内の日本語学校ですし、また中国以外の国の留学生も、リスク回避で紛争地域である日本留学を避ける人たちがたくさん出てくることが考えられます。
そしてその深刻な状況は、コロナ禍のように数年レベルではなく、十年単位レベルで続きますので、半数以上の日本国内の日本語学校は、事実上、経営不可能となることでしょう。
つまり、数年以内に、突然かつ長期的に、職を失ってしまう可能性があるのが、(特に日本国内の日本語学校の)日本語教師と言えるのかもしれません。
さらに長期的な視点で見ると
コロナ禍やチャイナリスクに関係なく、日本語教師の需要というのは、今がピークだと言われています。
現在は、円安であったり、日本政府が外国人に対してビザを緩和したため、訪日外国人が増えただけであって、日本そのものの人気が自然発生的に上がったわけではありません。
2000年~2020年の20年間がそうであったように、向こう10年~20年で、アジアの国々の隆盛に従って、相対的に「日本や日系企業で働くことの価値」はさらに失われていきます。
前述の通り、慢性的な「円安」に、日本円の力の無さが現れています。これでは他の国で働いたほうが稼ぎがいいので、日本にやってくる外国人労働者の数も質も、限定的なものになってしまいます。
それに伴って、日本語の需要、つまり日本語教師の需要も落ちていくと思われます。
例えば、日常生活においても、昔は家電大国だった日本ですが、すでに日本製の家電を探すのも難しくなってきています。日本のメーカーであっても、海外の工場で作られているため、日本における産業の空洞化は顕著です。将来も描けないのに、これでは日本人の人口が増えるわけがありません。
日系企業も海外の企業に買収される事例も相次いでいます。
前述の「ビザの緩和」も、少子高齢化および「日本で売るものがなくなってきた」ので、「他に売れるものは?」ということで、「観光資源」と「労働市場」を「販売」するためです。少子高齢化で内需だけでは国が成立しづらくなってきており、さらに産業の空洞化で売るものがなくなったため、ビザを緩和して外国人のインバウンドに期待しようという施策ですが、裏を返せば、日本の危機的な状況が見えてきます。
そして不足するすべてを外国人で補おうというのも無理があります。彼らとて同じ人間ですので、いつまでも日本人が敬遠する3K職に甘んじてくれるわけではありません。
政府の号令による「賃上げ」も、裏を返せば人件費の高騰、人を雇うことでのリスク増大となります。
いずれにしてもこれからはA.I.の活用や経営の効率化が進み、「人が少なくてもまわる社会」へ徐々にシフトチェンジしていきますし、そうならなければやっていけません。
つまり、人はそれほど必要なくなる、ということです。 これから国家資格の日本語教師になったとしても、日本語教師は7割以上が非常勤であることは変わりませんし、そもそも主な勤務先の日本語学校は多くが「中小零細企業」です。→参考:日本語教師は常勤と非常勤どちらが多いですか?
むしろコロナを経験して、日本語教育機関の経営者は、改めて常勤(専任)の日本語教師を多く抱えることのリスクを感じたことでしょう。今後はますます非常勤多用での経営にシフトしていくはずです。
ネット上では、「日本語教師 やめたほうがいい」「日本語教師 危ない」「オワコン」といった検索推奨キーワードがあふれていますが、日本語教師・・・中でも登録日本語教員をこれから検討されている方は、上記のような現実と将来の可能性もふまえて、いざとなったら他職にスムーズに移動できるようなバックドアも用意しておくことをお勧めします。
以上をふまえ、日本語教師・・・特に登録日本語教員になることは慎重に、検討には検討を重ね、覚悟を持って臨んだほうがよいでしょう。
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