質問
Q.日本語教師の資格は何個かあるようですが、どれが就職に有利なのでしょうか?
↓
回答
A. 日本語教師の就職の際、応募・採用条件として以下の3つのいずれか
A. 大学で日本語教育を専攻または副専攻
B. 420時間以上の日本語教師養成講座修了
C. 日本語教育能力検定試験合格
※「法務省告示の日本語教育機関」の場合、Bは「四大卒」+「”文化庁届出受理の”420時間以上の日本語教師養成講座修了」がワンセットになります。
・・・に該当していることが求められる場合が多いですが、求人の書面上ではA~C並列で同じ扱い(同等の価値)となっています。
では実際には採用担当者はどのように考えているかというと、雇用側の判断次第にもなりますが、強いて言えば、以下のような資格の評価(優劣)があることが多いようです。
1位:420時間講座修了 2位:検定合格 3位:大学で専攻
一般的には、日本語教師養成講座420時間修了が一番優位で、次いで日本語教育能力検定試験合格、そして大学で日本語教育を主専攻または副専攻という順に評価される場合が多いようです。
その評価の根底にあるのは、実践力があるかという点です。
実践力とは、実習経験や教授経験が豊富か否かで、専ら採用面接時の模擬授業で判断される場合が多いです。→参考:日本語教師の就職面接でよくある模擬授業ネタ
1位.420時間の日本語教師養成講座の評価
以上から、上記の3つの資格の中では、あくまで「一般的には」ですが、420時間講座が一番、実習が多いと考えられているために、資格の中では評価が1番高くなります。
しかしながら、新基準下でも、届出受理された養成講座であってもレベルはピンキリですし、実習に割かれる時間数や質は各講座によっても様々です。中には教室にいるだけで機械的に修了してしまうスクールもありますので、実習時間数が多い講座ほど良い講座、というわけでも必ずしもなく、ご自分に合った講座を選ぶ力が受講者にも求められています。
2位.日本語教育能力検定試験の評価
日本語教育能力検定試験については、筆記だけで実技はありませんので、あくまで知識だけが問われることになるため、420時間講座よりかは評価が落ちることが多いようです。
「日本語教育能力検定試験合格者等については教育実習の受講が望ましい」
文化庁「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」(平成30年3月 指針30頁)
など、検定を有資格の1つとしている問題点として、実習の欠如を指摘されていることがよくあり、今後、検定にも実習が義務付けられる可能性があります。
ただし、検定も実習経験がないと答えられない設問も多いことと、(催行機関によってレベルや運営方法がまちまちな養成講座や大学での専攻と違って)日本語教師の業界では、それなりに知名度がある1つの協会が、それなりの一定基準で合否を判断する、ということから(特に日本国内において)一定の信頼と評価がある資格ではあります。
また、極々稀に、検定試験合格者には資格手当として「月1万円程度を月給に上乗せする」というシステムを設けて、検定合格者を優遇する求人もあります。
上記はあくまで令和5(2023)年度までの状況をふまえた過去の記事となります。
2024年の国家資格(登録日本語教員)制度開始後の検定試験については、こちら『今後、日本語教育能力検定試験はどうなるか』をご参照ください。
3位.大学での主専攻/副専攻の評価
3番目の大学での主専攻/副専攻については、
- 大学での履修は、実習経験部分が少ない傾向がある
- 実習があっても同世代の留学生の教える経験になることが多い
- 学術的なカリキュラムが中心で日本語教育現場の最新の情報や傾向が反映されていない
という弱点があります。
質がバラバラ
実際、2020年4月に、文化庁が「大学または大学院における日本語教育に関する教育課程又は科目の内容について」確認したところ、その内容が大学によってバラバラ(ピンキリ)で、
という結果に至っています。就職の現場で、大学での専攻があまり評価されないのはうなずける結果です。
社会経験の欠如
また、日本語教師は日本語を教えればよいだけでなく、日本の社会その他あらゆることを教えなければならないため、それなりに社会経験があったほうが優遇される傾向がある中途採用市場ですので、どうしても大学での専攻直後の新卒者は、軽んじられてしまう場合があります。
大学で専攻後、社会経験を積んだとしても、今度は専攻からのブランクが問題となります。
採用者が重視するポイント
ちなみに、「日本語教師になるための学校ガイド」(イカロス出版)では「日本語学校へのアンケート」結果として、以下のようなランキングを掲載しています。
【日本語学校が採用で重視するポイントランキング】
- 養成講座での学習歴(420時間以上)
- コミュニケーション能力
- 日本語教育能力検定試験合格
- 日本語教育の経験
- 四年制大学卒業以上の学歴
- 一般企業・公務員などの就業経験
- 養成講座(420時間以外)での学習歴
英語などの外国語力- 海外での日本語教育経験
他分野での教職経験「日本語教師になるための学校ガイド2020」より
それ以前の「日本語教師になるための学校ガイド」でも、ほぼ同様の結果になっています。
【日本語学校が採用で重視するポイントランキング】
- 養成講座での学習歴(420時間以上)
- コミュニケーション能力
- 日本語教育能力検定試験合格
- 日本語教育の実習経験
- 四年制大学卒業以上の学歴
- 一般企業・公務員などの就業経験
- 英語などの外国語力
- 420時間以外の養成講座での学習歴
- 海外在住経験
- その他・・・環境適応能力、考える力、人が好き、パソコンスキル、文章力、特技、自己分析能力、自己管理能力、やる気と柔軟性、健康体、協調性、人柄、人間性、教授技術
「日本語教師になるための学校ガイド2018」より
これらのランキングにおいても、資格の中では420時間が優位で、次いで日本語教育能力検定試験となっています。大学に関しては、「四大卒以上」であることは重視されていますが、専攻までは重要視されていないことがわかります。
よくネット上で「日本語教師は英語力は必要ない」と書き込む方がいらっしゃいますが、「英語力」なども評価ポイントとしてランキングに入っていることが注目点です。
また、法務省告示校で就職する場合は「四大卒以上」でないと、いくら420時間講座を修了しても有資格者とはならない という落とし穴もありますので気を付けなければなりません。
ブランクもマイナス
注意点としては、いくら資格を持っているからといっても、資格取得後、または日本語教師退職後、ブランクがある人は不利になります。
一応、420時間修了にしても、検定合格にしても、有効期限はない(効力は永久)ですが、求人によっては、「1年以内に講座を修了した人に限る」「検定合格から1年を経過していないこと」といった条件を課しているケースも少なからず存在します。ブランクが許されるのは、概ね「1年以内」、厳しいところでは「3ヶ月~半年以内」と考えているところもあるようです。
「人の噂も七十五日」という言葉もあるように、だいたい人間は3ヵ月を過ぎた頃からいろいろ忘れていってしまうので、講座や検定で自分が学んだことをフルにいかしたい場合は、「鉄は熱いうちに打て」で、3ヵ月以上は空けないようにしたほうがよいでしょう。
また、大学での専攻については、履修から就職まで数か月空いてしまうのも、大学で専攻は評価で不利を被る、と言われる由縁となっています。
日本語教師を辞めてからブランクがある人や、資格は取ったもののぺーパーで不安がある人は、そうした方々を対象にした短期の日本語教師養成講座もあるので、利用してみるのもよいでしょう。
まとめ
以上のように、日本語教師の資格としては「420時間講座修了」が若干、優勢ではありますが、これらはあくまで一般論であり、各学校(採用担当者)によって、資格の優劣評価は異なる場合があります。
例えば、「以前採用した420時間修了者が使えなかったので、うちは検定合格者を優先する」といった学校もありますし、法務省告示校であっても、採用条件に420時間講座修了以外は記載していない(検定合格者や大学専攻者は不可)としている求人情報もあったり、検定合格者にも「四大卒」であることを採用条件として課してあったり・・・と、本当に採用基準は様々なのが日本語教師の業界でもあります。
ましてや海外ともなるとさらに採用条件はピンキリで多様性があるのが実状です。
共通して言えることは、この業界では社会経験も含め、即戦力となる経験者が優位であることに変わりはありませんので、とにもかくにも、何かしらの形でもいいので、日本語を教えるという経験をまずは積み、資格についても、1つの資格取得だけで満足せず、420時間を修了したのなら、次は検定も合格しておくなど、常にブラッシュアップに努めておくことが大切です。
資格というものは、ご自身が持っているスキルを対外的に形で表すだけのものなのですから。
(C) Copyright JEGS International Co.,Ltd. All Rights Reserved.