大学での専攻課程の対応具合

質問
Q.私は日本語教師に将来なりたいと考えています。そのなるための条件として、

  • 大学で日本語教育を専攻
  • 日本語教育能力検定試験に合格
  • 学士以上+文化庁届出受理の420時間以上の日本語教師養成講座修了

というのがあることは、自分なりに調べてわかりました。
そこで私は〇〇大学の日本語教育専修で学びたいと思ったのですが、この大学を卒業すれば日本語教師の有資格者としての条件を満たすことはできますよね。いまいち確信が持てなかったので、教えていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

回答
A. (あくまで2020年4月現在での状況と前置きした上での回答となりますが)実は、大学の日本語教師養成課程(日本語教育)を専攻すれば、どこの大学でも日本語教師の有資格者になれる、というわけではありません。大学の同じような日本語教育専攻でも、日本語教師の有資格者となる条件を満たしているものと、満たしていないものがあります

ご希望のその「〇〇大学」のそのコースが、後述の文化庁のリストで「対応済」となっていれば、それは日本語教師のなれる(有資格者となる)条件を満たしますが、もし記載がない、またはそのコースが「検討中」となっていれば、その大学のそのコースを専攻したとしても、日本語教師の有資格者とはなれない可能性があります。

38%の大学専攻課程が有資格者の条件を満たしていない

2020年4月に、文化庁から、

  • 文化庁「2. 日本語教師養成を実施する大学」
    https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/kyoin_kenshu/92159301.html

という発表がありました。その中で、文化庁は

「大学または大学院における日本語教育に関する教育課程又は科目の内容については」「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改定版」(平成31年3月4日/文化審議会国語分科会)において示された「日本語教師【養成】における教育内容」に掲げられた必須の教育内容をすべて含むものであること。」

とし、

法務省告示の日本語教育機関で勤務することを想定した日本語教員養成課程を有する大学は,解釈指針に示された教育内容を含む教育課程の編成を行っていただく必要があります。令和元年度文化庁委託日本語教育総合調査に御協力いただいた大学のうち,日本語教師養成課程が「必須の教育内容」を含むものに対応済み,あるいは対応を検討中と回答した大学について,文化庁のホームページにて公表いたします。

とした上で、以下の大学のリストを公開しました。

  • 文化庁「日本語教師養成課程を実施する大学一覧」
    https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/kyoin_kenshu/pdf/92159301_01.pdf

→こちらの[日本語教師になるための大学リスト]にて、まとめてあります。

約4割が「必須の教育内容」に対応しておらず

上記の文化庁リスト記載の200の大学の専攻課程のうち、

  • 「検討中」となっているものが76
  • 「対応済」となっているものが124

でした。

つまり、現状76/200=38.0%(=約4割)のコースが、日本語教師養成の専攻課程であっても、「必須の教育内容」に対応しておらず、「法務省告示の日本語教育機関」(いわゆる日本国内の日本語学校など)での日本語教師の有資格者としての要件を満たしていなかった、ということになります。

これまで大学は大学で、各校、自由に日本語教育をやってきた(質はバラバラだった)ということです。

元々 不利だった「大学での専攻」

このような形で明るみになる以前から、こちら日本語教師の資格はどれが有利か?でも述べているように、元々「大学での専攻」というのは、採用段階では評価はあまり高くありませんでした(資格としては不利だった)。

その理由としては、「大学での専攻は実習部分が弱い」「大学によって質がバラバラ」で、「大学での専攻者は使えない教師が多い」というのが、日本語学校の採用側の見解としてあったのですが、それが今回、文化庁のリストによって、改めて確認されたことになります。

まとめ

「法務省告示の日本語教育機関」で日本語教師として働くことを目指し、大学で日本語教育(日本語教師養成課程)を専攻しようと考えている方は、せっかくそのコースを履修しても、日本語教師の有資格者とはならない場合があります。

そのため、大学選びの際、または大学で履修コースを選ぶ際は、文化庁のリストをチェックして、そのコースが「必須の教育内容」に「対応済」になっているか否か、を事前にチェックするとよいでしょう。

また、今後、少子化がますます深刻になります。大学の存続自体が危うくなってきますが、その前段階として、大学にて日本語教師育成のコースを設けていたとしても、生徒が集まらずに突然コースが撤廃される、ということも起こりえます。

これまで10年以上にわたって日本語教師になるための大学リストを編纂してきましたが、実際、去年まで日本語教師養成コースがあったのに、突然、コースを撤廃したり、日本語教育から撤退した大学はたくさんあります。

大学運営は小回りが効きにくいので、そうしたリスクがあることも留意しておくとよいでしょう。