2024年(令和6年)4月1日に「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」が施行され、登録日本語教員(国家資格)制度が始まったら、それまで資格として認められていた日本語教育能力検定試験の扱いはどうなるのか、まとめました。
結論
先に結論をまとめておくと、日本語教育能力検定試験は、2024年以降、以下2点のようになります。
- 登録日本語教員(国家資格)の資格とはならない
- 経過措置期間に限り、現職者のみ資格として有効→但し、経過措置期間中に、講習(講習修了認定試験)のパスが必要
- 登録日本語教員の筆記試験内容は、日本語教育能力検定試験の内容と重複しているので、日本語教育能力検定試験の試験対策勉強は、登録日本語教員の筆記試験対策にもなる
- 認定日本語教育機関(法務省告示機関/登録日本語教員)以外では、今後も資格として有効なところは存在する
- よって、日本語教育能力検定試験の合格、または日本語教育能力検定試験の試験勉強をすることは無駄ではない。
検定合格だけでは資格にはならない
文化庁から「登録日本語教員の資格取得に係る経過措置」が公表されていますが、これを確認する限り、日本語教育能力検定試験合格のみでは、登録日本語教員の資格にはなりません。
旧有資格者が経過措置(救済措置)を受けるには、
- 「必須の50項目」修了(+大卒)者
または - 「現職者(認定機関での1年以上の教員経験者)」
であることが必須となっています。
→詳細:登録日本語教員(日本語教師の国家資格?)になるには
日本語教育能力検定試験合格は、「必須の50項目」にも「現職者」にも該当しないため、日本語教育能力検定試験合格のみしか資格を持っていない場合、「登録日本語教員」の「経過措置」を受けることはできません。つまり、検定合格だけでは登録日本語教員にはなれません。
登録日本語教員制度では、実践研修(教育実習)を最重要視しており、ペーパー試験である日本語教育能力検定試験の評価は低いことがこの制度を理解するためのポイントです。
まとめると、2023年を最後に、日本語教育能力検定試験さえ合格すれば日本語教師になれた時代は終わり、今後は日本語教育能力検定試験は資格とはみなされない、ということになります。
日本語教育能力検定試験と国家資格の筆記試験は「別物」
文化庁が公表している、
- 「認定を受けた日本語教育機関の教員の資格制度(イメージ)【たたき台】」https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/pdf/93782901_02.pdf
を見たところ、
日本語教育能力を判定する試験(筆記試験)
【筆記試験①】区分ごとの基礎的な知識・技能の測定
【筆記試験②】区分横断的な複合問題及び聴解試験
と、予定されている国家資格の筆記試験の内容が公表されています。
この内容は日本語教育能力検定試験の内容と酷似しています。
ではこれは日本語教育能力検定試験なのか?というと、そうではないようです。
日本語教育能力検定試験を実施している公益財団法人 日本国際教育支援協会(JEES)が公表している、
- 「令和5年度日本語教育能力検定試験の実施にあたって」
http://www.jees.or.jp/jltct/pdf/R5kenteijisshi.pdf
の書面を確認したところ、
本協会が本年度実施する「日本語教育能力検定試験」と、今後文部科学省で実施予定の日本語教員試験は、あくまでも異なる試験です
と明記されており、日本語教育能力検定試験と国家資格(登録日本語教員)の筆記試験は別物とのことです。
検定合格の「資格としての効果」は2023年の試験が最後
同じく同協会の案内には、
令和5年度の「日本語教育能力検定試験」は安心して従来通り受験してください。
との案内があります。
これは逆に言うと、2024年(令和6年)4月1日の法律施行後、令和6年度(2024年)以降の日本語教育能力検定試験に合格しても、資格としては扱われない、とも読み取れます。
つまり、日本語教育能力検定試験合格の、一般的な「日本語教師の資格」としての効力は、2023年(令和5年)10月に実施される検定試験合格が最後、ということになるようです。
但し、前述の通り、2023年10月の検定試験に滑り込みで合格したとしても、規定の1年以上の「現職者」でなければ、登録日本語教員にはなれません(登録日本語教員の経過措置には該当しません)。
2024年以降、日本語教育能力検定試験は無意味か?
以上のように、2024年の4月の国家資格制度開始以降は、日本語教育能力検定試験は、いわゆる「日本語教師の資格」の1つとしての効果を失い、存在価値を大幅に下げることになるように見えます。
国家資格(登録日本語教員)の筆記試験の内容
しかし、前述のように、
国家資格(登録日本語教員)-(案)-
日本語教育能力を判定する試験(筆記試験)
【筆記試験①】区分ごとの基礎的な知識・技能の測定
【筆記試験②】区分横断的な複合問題及び聴解試験
とあります。
日本語教育能力検定試験の内容
一方、日本語教育能力検定試験のほうは、
「日本語教育能力検定試験の出題範囲の移行について」
日本語教育能力検定試験は、令和4年度の試験より「必須の教育内容」 (文化庁)に準じた出題範囲に移行しました。
http://www.jees.or.jp/jltct/pdf/R4syutsudai.pdf
との試験内容の文化庁指針への擦り合わせがあった上に、実際、日本語教育能力検定試験の内容は、
- 試験Ⅰ:
原則として出題範囲の区分ごとの設問により,日本語教 育の実践につながる基礎的な知識を測定する。- 試験Ⅱ:
試験Ⅰで求められる「基礎的な知識」および試験Ⅲで求められる「基礎的な問題解決能力」について,音声を媒体と した出題形式で測定する。- 試験Ⅲ:
原則として出題範囲の区分横断的な設問により,熟練し た日本語教員の有する現場対応能力につながる基礎的な 問題解決能力を測定する。http://www.jees.or.jp/jltct/pdf/R4syutsudai.pdf
となっています。
2つの試験の内容はほぼ同じ
つまり、国家資格(登録日本語教員)の筆記試験(基礎試験・応用試験)と、日本語教育能力検定試験の内容はほぼ同じであり、同じような試験が国家資格でも実施されることが予想されます。
というより、文化庁が学習範囲の指針(「必須の教育内容」)を明示している以上、国家資格であれ何であれ、日本語教育に関して試験を実施したら、どれも同じような試験にならざるをえない、と言えます。
検定が「指定試験機関」になる可能性
また、上記 文化庁の「たたき台」の図にも、筆記試験の該当場所の下部に「指定試験機関」と記載されています。
これまで日本語教育能力検定試験を実施してきた公益財団法人 日本国際教育支援協会(JEES)が、その「指定試験機関」となる可能性があります。
つまり、実質的には、日本語教育能力検定試験が、この国家資格(登録日本語教員)制度の筆記試験に模様替えするだけ、ということになるかもしれません。
日本語教育能力検定試験対策は、国家資格の筆記試験対策になる
よって、当面は、国家資格(登録日本語教員)制度の筆記試験対策には、日本語教育能力検定試験対策の勉強が有効であると考えられます。
まとめ
- 日本語教育能力検定試験合格の資格としての効果は令和5年度(2023年)を最後に消失。
- しかし日本語教育能力検定試験と国家資格(登録日本語教員)制度の筆記試験は出題範囲が同じ。
- よって日本語教育能力検定試験対策の勉強は、国家資格(登録日本語教員)制度の筆記試験対策の勉強として有効。
- 筆記試験の「指定試験機関」が、日本語教育能力検定試験の実施団体(JEES)になる可能性もある
以上から、日本語教育能力検定試験の勉強は、国家資格(登録日本語教員)制度開始後は、必ずしも無意味・無価値になるというわけではなく、特に過去問研究等は、国家資格(登録日本語教員)の筆記試験対策の勉強として有益な存在であり続けると言えるでしょう。
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